アンセル通信
- デンマーク体操とゆかりの深い自由学園に早目に着いたお陰で、若さ漲る数々の演技を
間近で観覧できました。発表前の各メンバー達のウォーミングアップの仕方もそれぞれでなるほど、と思いました。
演技のテンポが年々スピードアップされていて、拍手の暇もないくらいでしたが、「若さはいいなあ」と感じました。(M氏) - 会場に両国の旗を翻し颯爽と入場。ざわざわ鳥肌が立ちました。観覧した場所が2階だったので躍動感あふれる
演技を立体的に見る事が出来、圧巻でした。
午後のレクチャーもゲーム混じりの動きもあって、結構汗だくでした。楽しく思い出深い体験になりました。(Sさん) - あんな至近距離での観覧に、ただただ感動のひとこと!2階席まで迫り来る宙を舞う肉体美。身体全体を使って 表現する、しなやかさ力強さ、巧みさは、瞬きするのも惜しい程に見入ってしまいました。(Mさん)
- 夢の様な時間を過しました。特に(フラフープの様な)輪の体操は、一瞬花火を見たようです。(Oさん)
- さすがデンマークのナショナルチーム!!音楽に合わせて躍動と静寂の調和を見せて頂き、本場でも拝見できな
かった演技に深く感銘、感謝致します。
世界各国を巡演の由、無事デンマークへの帰国をお祈り申し上げます。(I氏) - 発表は素晴らしかった。こじんまりした体育館の最前列で見ていたので、演技者がすぐ目の前まで来てものすご
い迫力でした。構成全体の流れに変化があり、雰囲気、衣裳も次々変わりとても楽しいものでした。
演技者一人ひとりの動きもさすがナショナルチームという感じ、もっと観ていたかったです。(Sさん) - 発表はマット運動に高さとスピード感があり、思わず感嘆してしまいました。ダンスは衣裳や振付けが今風で
良かったです。
2005年に受入れをしたヴェスタロン体操チームの3名の人が今回参加していると聞き、一人は分かりました。 あれから6年経ち、彼女の成長を見る事が出来て、なお感動が深まりました。(Iさん) - 片足立ちのV字バランスを数秒キープしている内に男の子のあごからしたたり落ちる汗。 男性かと見紛うばかりの背筋を持った、かわいい女の子。タンブリングへの最初の一歩を踏み出す時の、緊張のまな ざし。汗の匂い、体の起こす風。客席の後ろから演技を見守る、スタッフの鋭い視線。デンマークに4回行っても見 られなかったものを、思いがけずこの日小さな体育館で、まのあたりにしました。(Sさん)
2月26日、昨年夏にデンマークを出たナショナルチームがアメリカ、ハワイ、シンガポールを経て、関西での
公演を終えて東京へやって来ました。受け入れは自由学園、私の母校です。学園からの依頼で、メンバー2人のホー
ムステイをお引き受けしました。
『どんな人達かしら?』お会いする前に思うことは何回ホストを経験しても同じです。土曜の午後は、体操の指導が
あり、集合時間には間に合わず、一時間ほど待ってもらうように頼んで駆け付けると、集合場所の体育館には大きな
スーツケースが何個かあるばかりで、人影はありません。驚いてあちこち探すと、お迎えの遅い数名が学園長とお茶
を飲みながら待っていました。「村松さんのところは、ミッケルとラスムス」。呼ばれた二人がニコニコと歩み出て
握手。3日間のステイが始まりました。
重そうな荷物を2個ずつ持った二人の最初の質問は「家は遠いのか?」。徒歩10分はデンマーク的に近いのか遠い
のか、迷うところですが、重い荷物を持って歩くのはいかにも大変です。「ごめんなさい、車で来られなくて」と言
うと、「そんなことは全然構わない、荷物を運ぶのはいつものこと」。元気に家に到着すると、「とても近かった」
と嬉しそうに笑っていました。
部屋に入った彼らの第二の質問は、「何か手伝うことはありますか?」。びっくりして「あなたが私を?私があなた
を?」と聞き返してしまいましたが、二人はゆっくりと「僕たちがあなたを」と言います。今着いたところなのに!?
「まあまあ夕飯まではゆっくりして、お茶でも入れましょう」と日本流に応えると、「では少し休みます」とさっと
ベッドに入ってひと眠りしていました。『働く』と『休む』が際立ってはっきりしていることにまたびっくり
。いち早く環境に順応することが長旅のコツなのでしょう。
ラスムスは男子のインストラクター、ミッケルはフィジカルコーチで30歳と31歳の二人は、チームのメンバー
よりひと世代上の落ち着きが感じられました。聞いてみると二人は来日3度目。1回目はオレロップエリートとして。
2回目はナショナルチームメンバーとして。そして今回はナショナルチームの引率メンバーとして。お父さんお母
さんもエリートチームのメンバーであったり、オレロップの卒業生であったり、会うのは初めてでも、共通の友人
知人が沢山いることが分かりました。
夕食後、二人はお皿を洗うと言って譲らず、一緒に洗いものをしながら、私は自分が3歳から学園に学んだこと。
卒業してオレロップに留学したこと。子供は3人。下の娘はオレロップ留学で出会ったデンマーク人と結婚して、
今はオーデンセに住んでいること。アンセル誕生のいきさつや、キスのこと、2005年に来日・受け入れした
ヴェスタロンのこと、私たちのデンマークツアーのことなどを話し、最後には動画でアンセルの発表も見てもらい、
最初の晩は更けていきました。
翌朝チームは8時半集合で10時からの発表に備えると、二人はもう何日も前から住んでいるかのように出かけて
いきました。「観客は何人くらい?」と気にかけ、「200−300人と思う」と答えると「必ず良い発表を見せま
す」とにっこり。気持ちの良い自信を感じさせます。
本当に発表は、素晴らしい迫力と、若いエネルギーにあふれたものでした。躍動する演技の中にヴェスタロンチーム
のメンバーが、最初はおぼろげに、段々にはっきりその人、と見てとれて、それも嬉しいことでした。湧き立つよう
な体育館の熱気の中で、ふと見るとラスムスは隅の方から厳しい厳しい目を演技に注いでいます。ミッケルは肋木の
陰から見守り、タンブリングの時は素早く表れて補助に立ちます。若いギムナスト達を支える二人の責任の重さを
垣間見た瞬間でした。大きな喝采の中発表は無事終わり、午後の講習も無事済み、参加して下さった方々も満足
そうにお帰りになってホッとしました。
帰宅すると二人はすでに寛いでいて、「長い一日でしたね」とねぎらいの言葉をかけてくれます。 この晩は友景さんも来てくれて、賑やかな夕食になりました。発表も大成功で、二人もリラックスして、旅の苦労話 になると、いくつもの海外遠征を経験している二人は、寒い国から熱い国への移動や、食習慣の違いからほとんど食 べられるものが無いような国もあったり、輸送が上手くいかなかったり、色々な厳しい状況の下での発表もままある こと。疲れのたまったメンバーが些細なことから対立したりすることも時にはあること。そもそもお互いが未知数の 若者たちが一つのチームとなり、10カ月もの間、体を極限まで使いながら旅をして行くことは、本当の冒険で、 素晴らしい発見と共に、危険もともないつつ、日々真剣勝負で、それが人生のかけがえのない自信になっているとい うようなことを話してくれました。「デンマークは小さい国だから、自国の言葉だけ話しながら国の中だけで生きて はいけない。日本は大きな国だから、一生国内だけで、日本語だけ話していても生きていけるでしょう。」と言われ た時は、『日本の多くの若者にこの気概が欲しいものだ』と思わずには居られませんでした。デンマークの若者にと って、体操は単に体のためだけではないこと、ツアー、遠征という活動が体操と切っても切れない関係にあることを 改めて感じました。
最初はスローモーションのようにゆっくりと過ぎた時間も後半はどんどん速くなり、あっという間に別れの日が来ました。2000キロ の荷物を見事にトラックに積み込み終え、横浜へと移動するチームを渋谷まで送りました。最後にコーヒーを飲みながら、チームリー ダーのアナスに、私の母が子供の時に、ニルスブックの日本ツアーの演技を見たと話すと、『それが遠征の歴史の始まりで、今もこうし て続いているのです』と静かに答えてくれました。遠いデンマークと日本で、一つの体操から生まれた歴史がそれぞれに受け継がれて 今も生きていることに感慨も覚え、素晴らしい活動の一端を担えたことも嬉しく思いました。
今はもう中国で、未知との遭遇を重ねていることでしょう。今後の旅の安全と成功を心から祈ります。